MGMT『コングラチュレーションズ』(Columbia / Sony Music)

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 2007年のデビュー・アルバム『Oracular Spectacular』で大きな盛りあがりを見せた彼らだが、次作ではそのセールス・ポテンシャルを無視した「わけのわからない」ものを作るつもり...というアナウンスが昨年流れていた。プロデュースを手がけるのは、アンダーグラウンドにその名をとどろかせるソニック・ブームという情報を聞いたとき、こいつらマジだよ、と...。そしてカヴァー・アートは、モロ、E.A.R.(Experimental Audio Research。ソニック・ブームのユニット)じゃん...と思ったら、そのシングルを手がけたこともある人が、そのままやってるらしい。これは、さぞ、ぐしゃぐしゃな音楽になってるに違いないと、おそるおそる聴いてみたところ、驚いた! これは、もう、むちゃくちゃポップじゃないですか!

 もちろんヘンな音はたくさん入ってるし、ヒット・チャート・シングルを聞き流すだけという人がそう感じるかどうかはよくわからないのだが、そうではないものを普通に聴いてる耳であれば、躁病的かつドリーミーな世界に横たわるポップ性に、まずはうっとりしてしまうはず。

 ロック・スター、ロック・ヒーローに対して痛切な皮肉をかませつつ、彼ら自身がそれになってしまいそう...そんなアンビバレンツな魅力が『Oracular Spectacular』には、あった。しかし、この『Congratulations』では、それが徹底的に排除されているような印象さえ受ける。パワフルかつ骨太ととらえられかねない要素を避け、わざと軟弱であろうとしているかのごとき、確信犯的ふにゃふにゃぶり。

 最初に聴いたとき頭に浮かんだのは、今や日本ではいくぶん形骸化してしまった印象もある、ギター・ポップとかインディー・ポップという言葉。90年代後半のエレファント6系とかも思い出した(そういえば、エレファント6系と日本でシンクロしていたコーネリアスの最初のUSツアーは、フレーミング・リップスが企画したものだったけど、その前半にはソニック・ブームも出演していたんだっけ...)。だから、フリッパーズ・ギターを思い出すという意見にも納得がいったのだが、いや、それ以上に、プライマル・スクリームの『Sonic Flower Groove』! あくまで、ノリとして。

 レコード・デビュー前は、PILやスロビング・グリッスルなどに通じるノイジーな音楽をやっていたプライマル・スクリームだが、クリエイションからレコード・デビューしたときには(わざと軟弱であろうとしているかのごとき)ドリーミーなポップ・バンドに変容を遂げていた。その集大成が『Sonic Flower Groove』。MGMTの人も好きらしい(そしてベル・アンド・セバスチャンのスチュワートも好きだった)フェルトのキーボード奏者も、5人目のメンバー的に参加していた。プロデューサーがサイケデリックの大御所メイヨ・トンプソンだったことも、『Congratulations』におけるソニック・ブームの起用と、妙にかぶってしまう。

 こう考えると、「Song For Dan Treacy」という曲の存在にも合点がいく。プライマル・スクリームの音楽仲間であったアラン・マッギーがクリエイション・レコーズを始めたとき、なにより憧れていたのはダン・トレイシー、そして彼率いるテレヴィジョン・パーソナリティーズだった。

 ネオ・モッズの始祖のひとつ(どちらかとえば、そこから派生したザ・タイムスの方がそれっぽいけど)でもあり、ポスト・パンク・インディーを代表する存在(「Part Time Punks」は本当に名曲!)。「I Know Where Syd Barrett Lives」という曲も当時話題になっていた(ダンは、どうやら本当にストーカー的にシド・バレットの住所を調べていたらしい。ピンク・フロイドの前座に起用されたとき聴衆の前でそれを披露して、翌日からツアーを追いだされたという...)。ワーム!というインディー・レーベルを主宰し、話題になりかけた頃、ワム!がデビューすることになった。ダンは彼らのレーベルだかマネジメントだかに大金をもらって、レーベルの名前を変えた。それはそれでよかったのだが、そのお金で大量にドラッグを入手、それ以来ひどい中毒になってしまった(と、テレヴィジョン・パーソナリティーズのオリジナル・メンバーであり、ザ・タイムスを始めたエドワード・ボールに聞いた)。そして、なにより、オレンジ・ジュースと並ぶD.I.Y.ポップのゴッドファーザーとして、現在も多くの人たちに敬愛されている。

 こういった文脈で、このアルバムをとらえないのは、明らかに片手落ちではないか?

「Brian Eno」という曲もたしかに入っている。それも「アンビエント・ミュージック」を提唱する以前、ロキシー・ミュージック在籍時から70年代なかば頃までの彼が得意としていた狂騒的ポップ・センスを思い出せば、なんの不自然さもない。「Siberian Breaks」というタイトルで長い曲をやっているところは、イエスの「Siberian Khatru」を思い出す...というのはウソ...ともあながち言い切れないが、それより、やはりビーチ・ボーイズだろう。幻の『Smile』がもし完成していたら...。いや、サーフィンは終わった(Surf's Up)。プライマル・スクリームが、シングルB面で故デニス・ウィルソンの曲をカヴァーしていた、などということが、またもや頭をよぎる。

 収録曲中、最もソニック・ブームのイメージに近い「Lady Dada's  Nightmare」は、レディ・ガガを意識した曲だという噂も聞いた。彼ら、意外に(?)レディ・ガガも嫌いではなさそうだが(ちなみに、ぼくは嫌いじゃない)、彼女に「勝とう」などとは、夢にも思っていないだろう。どうして、彼女と競わなくちゃいけないの? まったく違う場所にいるのに(笑)。

 変な逆エリート意識とか、選民主義ではない。そうなってしまう、もしくは、そうせざるをえない(それしかできない)のだ。

 クッキーシーンのモットーは、always pop and alternative。「オルタナティヴを目的化している」などと、見当外れの後ろ指をさされることも少なくない。そんなとき、ぼくはこう思う。ああ、この人はけっきょく「大きな物語」しか認めないんだな、と。そして、ロック的な「大きな物語」を、まずはあえて回避したようなこのアルバムに、限りないシンパシーを覚える。

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