デイヴィッド・バーン&ファットボーイ・スリム『ヒア・ライズ・ラヴ』(Nonesuch / Warner)

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 かつての盟友、ブライアン・イーノとの「再開」を経て作られた感動的なゴスペル・アルバム『Everything That Happens Will Happen Today』、及びトーキング・ヘッズ時代の名曲も含むイーノとの共作曲の数々を斬新な演出とともに披露した一連のライブ・ツアー(昨年の来日公演も鳥肌モノでした)を始め、各所に出ずっぱりな客演なども込みで近年充実した活動を続けているデヴィッド・バーン。

 そんな彼が新たに届けてくれたのは、数年間に渡って構想の練られ続けてきた渾身の力作コンセプト・アルバム。物語の主役はフィリピンで20年に及ぶ独裁を続けたフェルディナンド・マルコス大統領の夫人で、自らも政治介入して辣腕を振るった一方、「3000足の靴」を始め、かのビートルズをブチ切れさせた逸話などその立場を活かした贅沢でやりたい放題なエピソードの数々を誇る悪名高き美女、イメルダ・マルコス。

 ディスコでのナイトクラビングも愛してやまなかった彼女の栄光とその落日までに至る半生と、当時のフィリピンにおけるクラブ・カルチャーの強烈なバイブスに着眼したバーンは、その魅力と妖気をいつもながらの特異な探究心とロマンティシズムでもって追求。数回のライブにおいて試行錯誤を重ねられ熟成したダンス・ミュージックは、現代性と懐古趣味の両方を併せ持ちながらもどこにもなかった音触りで、これまたバーンのキャリアの代名詞ともいえる「フェイク」に満ちている。

 音作りのパートナーはBPA名義の近作でもチャーミングなユーモアを撒き散らしていたファットボーイ・スリムことノーマン・クック。彼の手による洒落と抑制の利いたビートと、気品溢れるガーシュイン風のストリングスを軸に、ディスク2枚組90分に及ぶ物語は進行していく。

「音源ダウンロードが全盛の時代において、どうやったらリスナーにアルバムという記録形態の価値を認められるか腐心した」と述懐するバーンは、物語の担い手としてそれぞれ異なるシンガーを一曲毎に適材適所で配置。

 フローレンス&ザ・マシーンのフローレンス・ウェルチにセイント・ヴィンセントといった若手インディー・シーンの看板娘に、グライム・シーンのヒロインであるサンティゴールド、あのレディ・ガガの奇抜なファッションの元ネタと一部で噂されている元モロコのローシーン・マーフィーや、ゼロ7との共演でも有名なシーア・ファーラーといったかっ飛んだポップセンスを誇る才女たち、B-52'sのケイト・ピアーソンや元10,000マニアックスのナタリー・マーチャント、シンディ・ローパー、トーリ・エイモスといったロック界の生きる伝説から、最近ではエイミー・ワインハウスのバックヴォーカルも務めたシャロン・ジョーンズ、フレンチ・ポップを代表する歌い手カミーユなど、錚々たるメンバーが集結してそれぞれの個性を発揮。バーン自身もお馴染みの伸びやかなヘタウマ声を披露。

 こういったトピックに事欠かない作品でありながら、結果的にはバーンのコンポーサーとしての腕前が話題負けすることのない強度をこのアルバムにもたらしている。長年のインチキ・エスノポップ路線がひとつの結実を果たした2001年作の『Look Into The Eyeball』(余談だが、このアルバムでメキシコの国民的ロックバンド、カフェ・タクーバのルベンと共演している事実は、単独ライブやサマソニでの驚異的なパフォーマンスで日本でも彼らが知られるところとなった今こそ再評価されるべき)辺りから安定して高品質のポップスを作り続けてきたバーンのペンは今作でも冴えわたり、AOR的でもありながら刺激に満ちた独特のバランスを生んでいる。

 ちなみに、アルバム・タイトルの『Here Lies Love』は80歳を迎えますます意気軒高なイメルダ夫人が墓碑銘にと望んでいるフレーズとのこと。数奇な人生を歩んだ彼女の悪びれない美意識がそのエピソードに集約されているようでもあるし、そのフレーズをそのままタイトルに採用してしまうバーンの表現の軸はヘッズ時代から微塵もブレていない。

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