ヒア・ウィ・ゴー・マジック『ピジョンズ』(Secretly Canadian / Hostess) [reviews]

here_we_go_magic.jpg ぶっきらぼうなのに丁寧だ。計算されているようでされていない。とかく音は複雑で、それでいながらシンプルだ。ヒア・ウィ・ゴー・マジックはブルックリンのシンガー・ソングライターのルーク・テンプルによるソロ・ユニットとして始まり、ファースト・アルバムはダーティー・プロジェクターズなどをリリースしたテキサスのレーベル、Western Vinylから発表された。そして、現在はバンド編成となった彼らにとって二枚目となるアルバムが、この『Pigeons』である。

 09年にグリズリー・ベアやザ・ウォークメンらとともに北米・ヨーロッパをツアーし、音楽の完成度と人気が一気に高まり、発表された本作は、間違いなくルーク・テンプルのメロディが中心になってはいるが、ジャム・バンド的な演奏あり、ガムラン的な要素あり、ヴァン・ダイク・パークス的なところありと、実に面白い。

 ファンキーで程よいグルーヴ感を鳴らすベースもあれば、クラウトロックを思わせるところもある。ジャケットが暗示するように様々な要素が交じっているが、スフィアン・スティーヴンスからも絶賛されているルーク・テンプルの気持ちのいいメロディによって楽曲に一本筋が通っているから乱雑ではなく、ポップスとして大きく息をしている。実験的な音楽なのにドリーミーで甘美。するっと耳に入ってくる。まるで眠りに誘っているような奏では、夢の中でこの音楽を聴けたらな、と思わせ、思考の弛緩を誘い、「眠り」というもうひとつの現実を表現しているかのようだ。

 意識と感情が無に近くなる眠りの世界とは、村上春樹が『アフター・ダーク』で描いたように、もうひとつの現実で、人間が最も無防備に、無意識になれる状態でもあり、そこに感情はない。もし、無意識の世界に落ちてしまいたいと思ったら、僕はこの音楽を薦めたい。いわゆるサイケデリックと呼べるサウンドではあるけれど、本当に心酔し、自分の意識を失って、この音楽の住人になってしまいそうな作品なのだ。聴いているうちに溢れてくる豊かな心地。その心地は千差万別であろう。10人いれば10人の心地良さがあるのだろう。そうして思うことがある。無意識とは無限の創造なのだと。人間そのものが無限なのだと。だから音楽とは無限なのだ。そして音楽とは人間への圧倒的な肯定なのだ。本作は、気持ちよく麻酔を打たれてしまう危険なスウィート・トリップ・ミュージック。

(田中喬史)

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このページは、伊藤英嗣が2010年8月29日 16:14に書いたブログ記事です。

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