R.E.M.

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R.E.M.

伝えたかったのは"困難な変化が訪れても怖れないで
自分のプラスに変えよう"ってこと


R.E.M.の通算15作目『Collapse Into Now』は、90年代初頭、誰もが彼らを世界一のロック・バンドとして認識していた頃の自信と輝きを取り戻したような一枚だ。プロデューサーには前作に続いてジャックナイフ・リー(U2、スノウ・パトロール、エディターズほか)を迎え、パティ・スミスやレニー・ケイ、エディ・ヴェダー(パール・ジャム)にピーチズという胸躍るゲストが参加。レコーディングは、ポートランド、ニューオーリンズ、ナッシュビルのほか、デヴィッド・ボウイの『Low』やイギー・ポップの『The Idiot』、U2の『Achtung Baby』などの名作を生み出したベルリンのハンザ・スタジオでも行われた。

1996年にビル・ベリー(ds)が脱退して以降のR.E.M.にどこか物足りなさを感じていたリスナーも少なくないだろう。しかし、ポップなメロディと癖のあるサウンド・アプローチの融合を聴かせ、パンキッシュでエッジの効いたギター・サウンドとマンドリンやストリングスを織り交ぜた抒情性とのバランスを巧みに保った本作は、彼らの本領発揮と言えるいい意味でいかにもR.E.M.らしい作品となった。リスナーの心に希望を灯すような聴後感は、92年の名盤『Automatic For The People』を彷彿させる部分もあり、間違いなく彼らの最高傑作のひとつである。

ベースとバック・ヴォーカルを担当し、エディ・ヴェダー言うところの"R.E.M.の秘密兵器"であるマイク・ミルズに、厳寒のニュー・ヨークで話を聞いた。

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 振り返れば、前作『Accelerate』(2008年)、前々作『Around The Sun』(2004年)は、ブッシュ政権下でリリースされた作品だった。かねてからポリティカルな側面が強く、当然アンチ・ブッシュを掲げていたR.E.M.は、まるで使命感に駆られるように作品の中にそのメッセージを込め、アメリカ国民に訴え続けた。そのためか、前2作にはどうしても拭いきれない本国への危機感や失望感が漂い、作品に堅苦しさや閉塞感を与えていたと思う。それに対し新作『Collapse Into Now』は、曇り空が晴れわたるような開放感にあふれ、ポップでポジティヴなオーラに包まれている。そしてそれこそが多くのリスナーが長らく渇望していたR.E.M.サウンドだろう。

「『Accelerate』は、"ラウドでスピード感に溢れたアルバムを作る"という僕たちなりのコンセプトがあったんだ。バンドとしてもそういった瞬発力のあるアルバムを作る時期だと思ったからね。でも新作では、やりたいことは何でもトライできるように、そういった決まりを一切設けなかった。だからテンポの早い曲から遅い曲までいろんなバラエティを盛り込むことができた。新作が開放的に聞こえるのはそんな僕らの自由なスタンスが反映されてるからじゃないかな。
 だから、とくにブッシュ政権が終わったことが影響しているとは思わない。新作で政治的な意味合いを含んでいる曲は『Oh My Heart』だけだし。あの曲は被災したニューオーリンズについて歌った前作収録曲『Houston』を受けて書かれたもので、曲の主人公がいまだにハリケーン・カトリーナの傷跡が消えない彼の地を再び訪れるっていうストーリーになってる。たしかに"政権が変わった"とマイケル(・スタイプ/vo)が歌ってるけど、それもニューオーリンズの現状を伝える際に欠かせないことだからで。政治についてというより、ニューオーリンズという街とそこに住む人々の生活を歌ったものだね。僕らの曲はどれも人間を描こうとしてるから」

 政治的な要素が薄められた代わりに、本作はマイケル・スタイプの私情が綴られた曲が多い。マイケルの歌詞は、つねにどこかに生きることの悲しみや辛さが描かれているように思うが、決してダウナーな気分を誘うものではなく、"それでもやるんだ"という究極的にポジティヴな意思表明によって、聴いているほうにまで"そうだ、何とか耐え抜こう"という気持ちにさせてくれる。R.E.M.が欧米で熱狂的な支持を得ているのはそんなところが人々の心に響いているからだと思う(逆に海外に比べて日本での人気がいまいち伸びないのは、言葉の壁によってそういった歌詞がダイレクトに伝わらないからではないか)。

「そもそも僕らはすごく楽観主義者なんだ。マイケルはとくに前向きな性格だよ。彼はどの曲にも最終的にはリスナーに希望を感じてもらえるような余地を残してる。やればできるんだって元気づけるようにね。
 新作収録曲『Uberlin』なんかいい例さ。この曲の主人公は単調な人生に嫌気がさしてるようにみえるけど、一日の終わりには自分を鼓舞して明日へ向かって頑張ろうとする。マイケルが伝えようとしているのは、"どんなに困難そうに見えてもいずれ上手くいくよ"っていうメッセージなんだ。曲を聴いた後、リスナーにそういう気持ちを持ってもらえれば嬉しいね。僕らの曲はまず人々の痛みや悲しみを共有してもらうことから始まるんだ。お互いを理解し合った上で様々な問題を一緒に乗り越えていこうってね。努力すれば解決できない問題なんかないんだって信じてるから」

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 また本作は、激しさとキャッチーさのバランスが素晴らしいのも魅力。その点では、『Reveal』、もしくはもっと昔の『Lifes Rich Pageant』や『Document』を彷彿させもする。

「でも僕らは過去を振り返ることはしていないよ。常に前進を続けたいからね。僕もピーター(・バック/g)も作曲する時はいつも新しいことへの挑戦を念頭に置いてるんだ。過去にやったことの焼き直しなんて簡単すぎるからね。いつでも挑戦していないとダメさ。ただ、無意識のうちに類似したものを作っちゃってることもあるんじゃないかな。まあ、同じ人間が作ってるわけだから、作品に対する感性が変わらないのは当然のことだよね。後になってみて、あれはあの曲のあそこの部分に似てるなあって思うまでの話で、僕らの興味はいつの時代も新しいサウンドへの追求にあるんだ」

 では、今作においての最大の挑戦は?

「どのアルバムを作る時も一番の挑戦は今までの作品の中で最も優れたものを作ることだよ。常に過去の作品を凌ぐのは難しいけど、それが僕らの普遍的な目標だね。今回も同様で、妥協せず自分たちのベストをどれだけ尽くせるかっていう挑戦だった。限界まで自分たちを追いつめて、そこから絞り出したサウンドをレコードに刻んだ」

 本作は、最終曲「Blue」が終わった後に、冒頭曲「Discoverer」のサビが流れて幕を閉じる循環構造になっている。そのアイディアがよりアルバムのポジティヴさを象徴するように感じられるのだが、R.E.M.がこのような分かりやすい構造を持ってきたことは過去にない。これも新たな挑戦の一つということだろうか。

「あれはジャックナイフ・リーのアイディアなんだ。『Blue』は一番最後にナッシュビルで録音したんだけど、レコーディング中はあの曲をアルバムの最終曲にするとは決めてなかった。録り終わった後に、ジャックナイフが曲に手を加えてああいう形になったのさ。元々1曲目が『Discoverer』になることは決まっていたからね。僕らも曲が循環していくっていうアイディアが気に入って、そのまま使おうってことになった」

 ジャックナイフとの初タッグとなった前作『Accelerate』では、録音を2~3テイク以内と定め、ほぼライヴ録音でレコーディングされたそうだ。臨場感のある活き活きとしたサウンド・プロダクションが痛快な本作もやはり同じだったのだろうか。

「その通りだよ。新作は殆どの曲が1~2テイクで録られてる。どう演奏すればいいか分かってない方がいい音を出せる場合もあるからね。1、2テイク目ではいいセッションが出来るように神経を研ぎすませているし、それがいい音を生み出すんだと思う。テイクを重ねると曲には慣れてくるけど、一発目に生まれた勢いは失われてしまうから。だから始めの2テイクで出来るだけ全てのベース・トラックを終わらせるようにしてるんだ。今回のアルバムも殆どの曲がそうやってレコーディングされたんだよ。
 ピアノ曲『Walk It Back』もそういった即興性が上手く反映されたものだね。当初僕はアイディアを提示する感じでスコット(・マッコーイ/g)やピーターにあの曲を弾いてみせたんだ。彼らは僕のデモを聴いたことがあったから一緒にセッションしてたんだけど、曲の途中でドラマーのビル・リーフリン(ds)が部屋に入ってきてドラムを叩き始めた。ビルは曲を聴いたことがなかったのに、自然とジャムを始めたのさ。曲を知らない分、彼はすごく新鮮なプレイをしてくれたよ。僕らのレコーディングは綱渡りみたいなもので、足下を見たら落ちるんじゃないかっていうリスクを伴うけど、だからこそ渡ることに集中できるんだ。
 『Blue』みたいに、完成作を聴いてビックリすることも多々あった。あの曲はリハーサルなしの1テイクしかやってないんだ。ピーターからシンプルなコードを教えられただけで、僕は事前に曲も聴いてなかったんだよ。レコーディングが始まって、僕、スコット、ピーター、ビルがお互いのフィーリングを探り合いながら弾いて作った曲なんだ。まさに即興の産物だよね。あの時はまだ歌詞もついてなかったし、完成したものを聴いた時は随分いい作品になったんで驚いたよ(笑)。3コードのジャム・セッションがあんな美しい曲になるなんて」

 その「Blue」は彼らの91年の人気曲「Country Feedback」(『Out Of Time』収録)を思わせる叙情的なフィードバック・ギターを土台に、マイケル・スタイプのポエトリー・リーディングを全編に配し、その上をパティ・スミスのヴォーカルがたゆたう幻想的なナンバー。その最後に、マイケルは"20th century collapse into now"とアルバム・タイトルにも通じる言葉を語っているが、"今に傾れ込む"と訳せる意味深なタイトル『Collapse Into Now』に込めたものとはいったい何なのだろう。

「僕が思うに、マイケルは"君の人生で大切なのは今この瞬間だ"って言いたかったんだよ。どこにいても何をしていても、その瞬間を大事にして生きるべきなんだってことだと思う。そう思って暮らしていけば、前向きに生きていけるからね。少なくとも僕はそう解釈してるよ」

 先にマイクが言っているように、以前からマイケル・スタイプの根底には楽観主義が息づいていたが、彼のポジティヴな姿勢は年々さらに増しているように思える。また彼はその姿勢をリスナーにストレートに伝えようとしているような気さえする。2007年、R.E.M.がロックの殿堂入りを果たした際のスピーチで、マイケルはこう話していた。「ある時、祖母が僕の手を強く握って言ったんだ。"R.E.M.が私にとってどういう意味か分かるかい? 私にとっては、Remember Every Moment(全ての瞬間を心に刻め)という意味なのよ"」と。R.E.M.はいまだに公にバンド名の持つ意味を明かしていない。Rapid Eye Movementというのが俗説となっていたが、いまのR.E.M.には、Remember Every Momentという解釈がぴったりではないか。

「僕もそう思うよ! 僕らがバンドを初めてもう30年も経つけど、今まで本当に色んなことがあったんだ。でも、自分たちのキャリアを振り返って一番大切なのは何かっていったら、それは今現在に他ならないからね。これも今話していたことと一緒で、その瞬間を謳歌しろってことなんだ。僕にとってアルバム・タイトル『Collapse Into Now』も、まさにそんな意味があるのさ」

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 歌詞に話を移せば、本作を通して聴いた時に最も印象に残ったのは、"Change"という言葉だった。"don't forget that change will save you"と歌う「Uberlin」や、"something needs to change"と歌う「Walk It Back」などの具体例のほかにも、各曲に"変化"というテーマが通底しているように感じられる。マイケル・スタイプは最近のフィッシャー・スプーナーとの対談で「人は自分たちでコントロールできない"変化"を忌み嫌いながらも、その"変化"に慣れていくために人生の多くを費やしていく。それこそが人間なのであって、"変化"は僕たちにとってなくてはならないものなんだ」と語っている。本作にテーマがあるとすれば、"変化"、しかも肯定的な意味での"変化"ではないか。

「変化は必ずやって来るものなんだ。その殆どが予期してない時にね。人生は変化の連続だし、それにどう対応するかでその人の人となりが表れると思うんだ。僕らもバンドを結成して以来様々に変化を経験して来たよ。もちろんその中でも最大の変化はビル(・ベリー)が脱退したことだった。このアルバムの中でもマイケルが一人称で歌う色々なキャラクターは彼らの身に降りかかる変化に対応を余儀なくされてる。僕が思うに、マイケルが彼らを通してリスナーに伝えたかったのは、"困難な変化が訪れても怖れないで自分のプラスに変えよう"ってことなんだ。自分たちではどうすることも出来ないものなんだから、それだったらしっかりと受け止めて最大限上手く利用するべきだろう? 曲中のキャラクターはそこで戦ってるんだよ。自分の人生なんだから、楽しく生きた方がいいに決まってるからね。『Find The River』(『Automatic For The People』収録曲)の最後の一節を覚えてるかい? あの曲の中でマイケルは痛みや人生の辛さを綴りながら、最後の一節で"All of this is coming your way(全てが君のもとにやって来るさ)"と歌ってるんだ。今作に入ってる『Uberlin』という曲で歌っているのも一緒さ。辛くても少しずつ困難を乗り越えていこうっていう希望なんだ。人生は旅そのものだよ。毎日が新しいことの連続だし、人生をより良くする為の機会は探せば必ず見つかるはず」

 さて、96年に当時史上最高額と言われた推定88億円でワーナーとアルバム5枚のリリース契約を結んだR.E.M.だが、本作がその最後の1枚にあたる。音楽業界のあり方が激しく変化していく中で、彼らは今後のことをどう考えているのだろう。

「いまのところまだワーナーとの再契約は交わしてないよ。今後の活動についてはまだ僕らにも分からないんだ。いまの僕らは目の前にすべての選択肢を並べているんだ。どこかのレーベルと契約するという選択肢もあれば、活動を辞めてしまうという選択肢もある。未来は色んな可能性を孕んでいて、僕ら自身にもどうなるのか分からない。だからこそ先のことを心配するよりも今を充実させたいと思うんだ」

 いかにもR.E.M.らしい実直な答え。"未来がどうなるか分からないなら今を一生懸命生きるしかない"。『Collapse Into Now』は多くの人にとって、心が折れそうな時にそっと支えて励ましてくれるような、そんな作品になっていくのではないかと思う。

2011年1月
質問作成、文/徳武純平(CDジャーナル)
取材、翻訳/大川五月
取材協力/伊藤英嗣

*本原稿の執筆者は"クッキーシーン・コントリビューター"ではありませんが、ムック版クッキーシーンの編集を共におこなってくれている人物です。R.E.M.が表紙を飾るCDジャーナル3月号には、上記とは一部内容の異なるインタヴュー記事を含むR.E.M.特集(彼が当該部分の編集を担当)が掲載されています。【クッキーシーン編集部追記】

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R.E.M.
『コラプス・イントゥ・ナウ』
(Warner Bros. / Warner)

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