オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク(OMD)

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ORCHESTRAL MANOEUVRES IN THE DARK (OMD)


ぼくは昔から「戦争」と「宗教」という

ふたつのテーマに魅了されてきた


今年前半に発表された、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク、略してOMDのニュー・アルバム『English Electric』、リリースから数ヶ月たってもその魅力はまったく色あせていない。


80年代にデビューしたUKのエレクトロニック・バンドとしては、ほぼ同じころ、デペッシュ・モードもペット・ショップ・ボーイズもニュー・アルバムを発表している。OMDは彼らほどビッグ・ネームではない分、話題になることが少なかったかもしれない。しかしぼくは最近、おもしろい体験をした。今とても注目しているグラスゴーのエレクトロニック・ユニット、チャーチズ(今年のサマーソニックにも出演)のデビュー・アルバムを、先月(幸運にもリリース前に)聴けた。先行EPを聴くかぎり、もうちょっと暗めの...そう、90年代以降のデペッシュ・モードっぽくなるかな? と思ったら、そうでもなかった。もうちょっとポップで明るかった。そこで、ぼくの頭に浮かんだのが、彼ら...オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク、略してOMDの名前だった。


もちろん、直接的影響云々とか関係なく、もっと大きな、時代...「ポップ・ミュージックの趨勢」の流れとでも言おうか。


クッキーシーンとしては、2010年に、彼らが久々(24年ぶり!)のニュー・アルバムをリリースした際にも、彼らのインタヴューを掲載している


この機会...プライマル・スクリーム「公式インタヴュー・フル・ヴァージョン」をアップしたタイミングで、こちら(OMD)は、「公式インタヴュー」から中心人物アンディー・マクラスキーの発言のいくつかをピックアップした形の記事をお届けしよう。


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 今をさること約3年前、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークことOMDが、24年ぶりにリリースしたアルバムのタイトル『History Of Modern』は、彼らがデビューした当時...80年代初頭の「ポスト・パンク状況」を知る者にとって、かなりぐっとくる...そして思いっきり膝を叩きたくなるものだった。


 80年代初頭当時、多くの(アヴァンギャルドもしくはアコースティック志向の)バンドたちを語るときには、(まあ、アーティスト自身がというより、リスナーが勝手にくっつけたという意味で)いわゆる「ポスト・モダン」思想と結びつけられることも多かった。しかし、その一部には(特にOMDをはじめとするエレクトロニック志向のバンドのいくつかは)20世紀初頭の「未来派」志向もしくは「かつて『モダン』という言葉が持っていた夢」という流れにつながる部分も、明らかに存在していた。


 だから、「モダン」というのは、産業革命以降、第一次世界大戦のころまでの「科学がすべてを克服する」というシンプルな夢というか...。今でいう「スチーム・パンク」っぽい雰囲気から、映画『メトロボリス』では否定的に描かれていた、初期エレクトロニクス機械の(今見るとレトロで素敵に思えてしまう)デザインまでに通じる感じというか...。


 オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークことOMDのニュー・アルバムは、前作の高評価を受けて、完全にその流れをつきすすんでいる。もちろん彼らは、バカではないし(笑)「そういった夢をもう一度信じよう」などと主張しているわけではない。前作のタイトルも、あくまで『History Of Modern(モダンの歴史)』。


 たとえば、ニュー・アルバム『English Electric』に収められた「Metroland」という曲の歌詞は、あたかも近未来ディストピアSF小説に通じるのりを持っている。


「まあ、ぼくは憂鬱な性格の持ち主だからね(苦笑)。ぼくが子供時代を過ごした1960年代、第二次世界大戦後のイギリスでは『テクノロジー、科学と医学が素晴らしい未来を造る』とユートピア的世界が掲げられていた。例えば『人間の寿命は200歳まで伸び、飢餓の問題は解決し、人が空を飛ぶことも可能』とか(笑)。ところが、実際年月を経た現在、そのユートピアがディストピア的世界になった部分もあるね。テクノロジーの発展面では確かに素晴らしい結果となったけど、その『未来』はかつてぼくらが約束されていた様な明るい結果にはならなかった。そのいい例がこの『Metroland』。1920年代か1930年代にロンドン北西部に地下鉄メトロポリタン線を建設することになったとき、(メトロポリタン鉄道は)乗客を増加させるための(『メトロランド』の住宅を販売するための)宣伝文句として『空気の汚い都会を脱出し、美しい田舎へ引っ越そう!』とうたった。ところが、100万人もの住人が引っ越した『メトロランド』には、約束されていた森林はないし、牛もいなかった。あるのは立ち並ぶ郊外の家々とコンクリートだけだった。彼らが夢見た未来はぶち壊されてしまった」(アンディー・マクラスキー、以下同)


 20世紀初頭の「構成主義」もしくは「未来派」に通じるアートワークについては?


「アートワークはアルバム・タイトルと深く関係している。新譜の曲作りに着手する前から、タイトルは『English Electric』にしようと決めていた。まず第一の理由として、ぼくらはイギリス出身のエレクトロニック・バンドだから(笑)。そしてそれに、かつて鉄道機関車や航空機やコンピューターなどを製造し『未来を設計する』素晴らしい会社だった総合電気メーカーのイングリッシュ・エレクトリックの社名をかけた。その会社は1970年に終焉を迎えた。これまた、『みんなに約束していた明るい未来が実現されなかった』ことの例だね。ぼくは10歳の時に科学博物館で展示されていた巨大な機関車...列車を見に行ったことがあった。その『未来』を感じさせた青色の美しい列車は、不思議なことに、たった15年前に製造されたばかりなのに博物館に展示されていた...。この『過去』『未来』『憂鬱さ』を融合させた世界観が、OMDのメタファー(比喩)として最適と思ったんだ」


 かつてファクトリー・レコーズのアートワークを手がけていたピーター・サヴィルの手腕のみならず、ここには彼らが設定したコンセプトもきっちりと活かされている。


「アルバム・タイトルが『English Electric』だから、当初は、その会社がかつて作っていたの列車を正面から捉えたグラフィック・デザインをジャケ写にしようと考えていたけど、雰囲気がレトロすぎて却下されちゃったんだよね(笑)。多分日本にもあると思うけど、イギリスやヨーロッパの鉄道で目にする線路の警報機や警告標識のような黒と黄色のストライプや、赤を更に現代的で派手な色合いに手を加えたグラフィック・デザインを作成した。ピーター(・サヴィル)と彼が今いっしょにやっている若手デザイナーのトム、そしてぼくの3人でいろんなデザイン・パターンを見ながら何度も打ち合わせを重ねたよ。色合いが鮮やかすぎて、目がおかしくなるほどだった(笑)」


2013_05_OMD_A2.jpg『English Electric』には、元クラフトワークのカール・バルトスによる曲「Kissing The Machine」ものカヴァーも入っている。20年前に出た彼のアルバムに収録されていたこの曲には、アンディーが作詞&ゲスト・ヴォーカルで参加していた。


「今回のアルバムはここ2年間で書いた曲ばかりだけど、20年前にカールと録音したこの曲はカヴァーしたいな...と思って(もうひとりのメンバーである)ポール(・ハンフリース)に、『Kissing The Machine』を20年前とは違う感じでまたやりたいんだけど...と相談したところ『任してくれ。全く違うアプローチで作り直す』と言ってくれた。そして、カール(・バルトス)も(カヴァーに関して)承諾してくれた。オリジナル・ヴァージョンに女性ロボットの声が入っていることと、今回の新作は『テクノロジーと人間との関係性』をテーマにしていることもあった。だから、ポールの同棲相手でもある元プロパガンダのクラウディア・ブルッケンをフィーチャーする案は最高だと思ったね! クラフトワークのカール・バルトス、元プロパンダのクラウディア・ブルッケンとOMDがコラボしたことにより、素晴らしい英独合作のエレクトロニック・コラボ曲に仕上がったと満足しているよ」


 OMDには、第二次世界大戦中に原子爆弾を投下した飛行機の名前をタイトルに冠した「Enola Gay」という大ヒット曲がある。そして今回の『English Electric』には、「Dresden」という曲が入っている。第二次世界大戦における悲劇的な爆撃地として知られる町だ。曲調が、なんとなく「Enola Gay」に似てる気もするけれど...。


「直接的には(ドレスデン爆撃とは)関係ない曲だよ。この曲はぼくの恋愛関係に起きたショッキングな出来事のメタファーで、人間の『喪失感』や『破滅』を歌っている。曲調に関しては(『Enola Gay』に比べて)『Dresden』の方が若干メランコリックだと思う。『Enola Gay』は歌詞内容が悲しいのに、曲調は精神分裂病かと思うほどメロディアスでキャッチーだよね。まぁ、両曲ともぼくが書いた曲だし。ギターと壮大なメロディが印象的で」


 なるほど。


「ぼくは昔から『戦争』と『宗教』というふたつのテーマに魅了されてきた。もちろんこれらは正反対のものだけど(両者に共通する)『私が正しくて、オマエは間違っている。だからオマエを殺す』という人間のメンタリティに圧倒されてきた。ドレスデン爆撃は、『Enola Gay』で取り上げた広島と長崎への原爆投下と同様にショッキングな悲劇だった。ぼくも(強く)そう思うよ」


 そして、『English Electric』には「Atomic Ranch(原子力農場)」などというタイトルの極めて短い小曲も収められている。先述のクラフトワークは、昨年わざわざ日本に来て(「Radioactivity」つまり「放射能」という曲にからめて)「原発やめろ」というメッセージを届けてくれた。彼らにもそれを期待したいところだが、この曲の歌詞(というかナレーション)は「車も家も子どももほしいけれど、妻はロボットでいい」という、奇妙な独白...。


「ふふふ(含笑)。この『ロポット妻』というのは、ぼくの願いじゃなくて『未来予想図』(的な昔のSF小説など)に描かれる決まり文句みたいなもの。『完璧な人生』を求める男性陣は、素晴らしい家と車、出来のいい子供たちとロポット妻がいればOK。変な質問を投げかけてきたり、『愛や金、靴がほしい』なんて面倒なことを言わずに、あれこれ指図しないロボット妻がいい...と...。そんな歌詞なんだ(笑)。曲の最後にオチがあって、ロボット妻でさえも『私は愛がほしい。未来がほしい』と言い出すんだよね(笑)。未来の理想郷(ユートピア)を夢見て『完璧な人生』を手にしたと思っても、実際そんなものは存在しないんだよ」


 なるほど、さ、さすが! まるで星新一のショートショートのような...というか、キャッチーさのなかに、きつい皮肉がこめられている。彼らの真骨頂ですね(脱帽)!



2013年5月

質問作成/吉村栄一

文/伊藤英嗣



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オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク
『イングリッシュ・エレクトリック(電気仕掛けの英吉利人)』
(100% / Sony Music)

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