TEMPLES
ポップだと言われても
けなされてるとか感じない
2014年を代表する作品の1枚として、かなーり上位にランクされるファースト・フル・アルバム『Sun Structures』を同年2月にリリースしたUKバンド、テンプルズ(今のところ「ザ・」はついてない)。
以前から一度メンバーと話をしてみたい...と思っていたのが、フジ・ロック出演を期に、ようやく実現した。今回インタヴューに臨んでくれたのは、ドラマーのサム・トムズこと、サミュエル・ロイド・トムズ。
大きなイヴェント...フェスの楽屋ってことで、こちらの緊張度は比較的低かったものの、なにせ昔に比べれば「担当するインタヴュー」の数は、(決して大げさな表現ではなく)50分の1以下に減っている(笑)。
そのうえiPodにマイクをつないで録音するようになったのは「死ぬほど多かった時代」の末期だし、今やiPhoneのモニターを見せつつ「クッキーシーンとは、こんなメディアです」と説明した直後に「ボイスメモ」アプリを立ちあげ、バックアップ録音用に使う...という(ジジイにとっては、いくぶん)アクロバティックな行動が必要となる。そのあいだ、インタヴュイーであるアーティストを退屈させないよう、適当な自己紹介を口走ってなければいけない...。
そんなどたばたを(逆に)感心したようにながめていたサムだけど、それも「こそばゆ」かった。だから、こんな「妙な地点」から、当記事はスタートする...。

えー、まあ、ぼくはジャーナリストなので。
サミュエル・ロイド・トムズ(以下、S):じゃあ、エネミー(敵)だ。
えっ? NME(エネムィー)...じゃなくて(汗&笑)?
S:違う違う(笑)。
まあ、一般的に言って、ジャーナリストはミュージシャンの敵ですからね(笑)。それはそれとして、『Sun Structures』、今のところぼくにとって、今年のベスト・デビュー・アルバムの2枚のうち1枚ですよ!
S:もう1枚は?
サム・スミスのやつ。
S:誰? よく知らない...。
だから、ディスクロージャーとかでも歌ってたひとで...先月だかに、USのチャートでは1位にもなったみたい。
S:いい名前だね(笑)。
そうそう。あなたはサムだし、テンプルズには...アダム・スミス(キーボード、ギター担当)もいますし(笑)。
S:(爆笑)。
さて、テンプルズ(寺院)というバンド名、変わってるといえば変わってます。あなたたち自身...まあ、UKのひとたちにとっては、どう響くんでしょうか?
S:まずなにより、たぶんきみたち以上に、この言葉にはエキゾティックなものを感じる。そしてサイキック...スピリチュアルというか...。ミステリアスで(キリスト教とは当然違った)宗教的なニュアンスも感じるし...。あと、すごく「でっかい」感じがするんだよね。
スピリチュアルか...。ぼくとしては、その言葉を聞くと...なんかね、ちょっと...。ほら、ネット上とか雑誌や本の世界では、スピリチュアリズムにはまりすぎた人たち...若い女性とか? をよく見るから...。
S:わかるわかる(笑)。
今の言葉を聴いて、ちょっと安心しました。ぼくは今50歳くらいなんだけど、とても若いころノイズ・ミュージックに入れこんでいました。キャバレー・ヴォルテールとかスロビング・グリッスルとか...。
S:スロビング・グリッスル! 大好きだよ!。
わお(笑)! そのリーダーは、ジェネシス・P・オーリッジというひとだったんだけど...彼はそのあとでサイキックTVというバンドをやってましたよね?
S:もちろん、知ってる! 大好きだよ。アナログ盤で持ってる!
でもって彼は、そのバンド活動をとおしてテンプル・レコーズというレーベルをやっていたんですが...。
S:そうだっけ(笑)?
そうそう(笑)。で、あなたたちの音楽もサイキックというか、サイケデリック。
S:いいね!
じゃあ、たとえば、ぼくのような...ジャーナリスト(笑)が、テンプルズの音楽はポップだ、と言ったらどう思う?
S:いいと思うよ! なんというかさ...とってもひどい...すさまじいポップをやるってことが、きっと「いい音楽をやる」ってことにつながってくるんじゃないかな。だから、ぼくはヘヴィーなアンダーグラウンド・ミュージックも大好きなんだけど、テンプルズはポップだと言われても、けなされてるとか感じない。ニルヴァーナだって、ヘヴィー・ヴェジタブルズだって、充分に...クールなポップだ。ぼくはそう考える。

同意します。そういえば...テンプルズ(寺院)というのは昔の東洋の宗教につながってくる名前だけど、ニルヴァーナもそうだったよね...。インドの仏教とか...。
S:ああ...! たしかに!
あと、ニルヴァーナという名前の、よりポップなサイケデリック・バンドが60年代にも...。
S:いたいた(笑)。彼らの音楽も素晴らしかったよね!
なんか、きみ、音楽に詳しすぎ...。若く見えるけど、いったい何歳なの(笑)?
S:25歳。
そうなんだ!
S:もう1世紀の1/4も生きてしまった(笑)。
(笑)さっき、ヘヴィーなアンダーグラウンド・ミュージックが好きと言ってたけど、たとえば?
S:古いもの? 新しいもの?
じゃあ両方。
S:ボーニンゲンって、知ってる?
ボーニンゲン(笑)! もちろん!
S:日本人だけど、ロンドンに住んでる...。正直言って、レコード(レコーディングされた音源)は...ちょっと、もうひとつかな...とは思うんだけど、ライヴが本当に最高なんだよ! それで、感動して仲よくなった。それから、ソニック・ユースも大好きだし、あとは(UKにおける時系列にのっとって言えばポスト・パンク時代にニュー・ヨークで話題となっていた)ノー・ウェイヴ・バンドたちも大好き! シューゲイズ(と呼ばれるバンド)もね!
そっか、日本ではシューゲイザーという言葉のほうが一般的かもだけど、そっちではシューゲイズ...
S:スロウダイヴとか、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとか!
そういえば、ぼくは昔、ジーザス・アンド・メリー・チェインがトリで、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとダイナソーJr.とブラーが出たツアーをUKで見て...
S:ローラーコースター・ツアーだね。うらやましい...。ブラーはどうだった?
よかったよ。演奏もだけど、バックグラウンドで流してた映像のほうが印象に残ってるかな。すごかった...
S:どんなふうに?
ええと...たとえば...ポッシュな(自分は上級な人間である、みたいなふうに気どった)紳士が洗車してるんだけど、ホースから出てるのは「水でも泥でもなく、うんこ」みたいな...。
S:まじ?
うん(笑)。
S:でもそれって...イメージ的に、あれっぽくない? ピーター・ガブリエルが在籍してたころのジェネシスとか。
ああ! たしかに! じゃあ、そろそろ時間もなくなってきたんで、最後の質問。これはあくまでぼくの印象論なんですが、日本だとテンプルズのファンって、ぼくくらいの世代...40代とか50代と、あなたたちくらいの世代...20代にわかれてて(年齢的に)ちょっと中間層が薄い...という気もするんですが...。
S:まあ、こっちでもそんな感じがするよ。若者たちとジジイ&ババアたち。(年齢的な)中年層はあまりいないような気が、ぼくもするね。だけど、それもクールなんじゃないかな。レコードをコレクトしてるような年寄りたちと、それからギグに行きまくってるような若者たち、それがぼくらの主なファン層なのかもしれない。だから、イングランドでのショウとか、おもしろいよ。前のほうには、こんな(激しく暴れているジェスチャー)キッズたち、うしろのほうにはこんな(腕組みをして値踏みするような目つき)ひとたち、そしてフロアまんなかあたりには...とにかくストーナーたち(笑)。
うわあ(笑)。
S:だから、ぼくらのファンには、そんなみっつのレベルがあるのさ(笑)。

以上が、当日の会話の、ほぼ全容。途中「情報としては捨てがたいかも? ただ流れとしてキャッチーじゃない」と思った部分を、2ヶ所ほどカットしている。
そのうちひとつ、25歳の若さでアナログ盤にここまで「親しめる」のはなぜか? というジジイの自然な疑問に対する彼の答えは「親が持ってたジミ・ヘンドリックスとかのアナログ盤を子どものころから聴いていたから」。
もうひとつ、比較的アンダーグラウンドな60年代のサイケデリック・ミュージックに、メンバーのなかで最も入れこんでるのは誰か? 「みんなそうだけど、あえて誰かと訊かれれば、トムかな?」ということだった。
このインタヴュー後、諸般の事情でぼく自身は彼らのライヴを観ることはできなかったものの、いろんなひとの話によれば、それは素晴らしいものだったらしい!
ついでに(?)フジロックで観ることができたいくつかのアクト(すべて3日目)に対する「ひとこと感想」を、このあと...『Sun Structures』基本情報をはさんで。興味あられるかたは、よろしければ...。
2014年7月
取材、翻訳、文/伊藤英嗣

テンプルズ
『サン・ストラクチャーズ』
(Heavenly / Hostess)
ザ・ペインズ・オヴ・ビーイング・ピュア・アット・ハート。潔いほどインディー・ロックもしくはインディー・ポップどまんなか。
ザ・ストライプス。グリーン・ステージが(となりのひととぶつからない程度に、ちょうどいい塩梅の)ダンス・フロアに! たしかラストがニック・ロウのカヴァーだったのも、ジジイ泣かせ(笑)。
DJヨーグルト。テンプルズというバンド名がそうであるのと同じ意味で(つまり、素敵に)スピリチュアルだった。夏の苗場という、いわばヒッピーっぽいシチュエーションがずっぱまり。ずいぶん前からSNS上では会話を交わしてきている彼と初めてナマで言葉を交わせたのもうれしかった(笑)。
アウトキャスト。いわゆるニュー・スクールの盛りあがりも下火になったころ登場した彼らが、ニュー・ニュー・スクールとかネオ・スクールとか言われなかった理由が、少しわかった気がした。つまり、そのメッセージ性や、下品なまでのパーティーのりも含み、いやあ...オールド・スクール。次の(別ステージの)バンドを観るため、途中で泣く泣く会場をあとにしたときも、実は泣いてなんかいない、「Yo, yo...」みたいにベタなヒップホップ・ダンス(だから、ああいう手つき...なんて説明すればいいか、わからん!)を踊りながら、ひょこひょこ歩かざるをえなかった。
そして、ザ・ポーグス。80年代から90年代初頭にかけて、シェーン・マッゴーワンが在籍していたころのライヴは、何度か観た。もう大昔すぎるので、あまり詳しいことは憶えてないのだが、とにかく楽しかったし、ケルト・ミュージックと日本の祭り囃子の共通項に気づかせてくれたのも、彼らのライヴだった。それを期待しつつ、わくわくしながら開演を待った。若者から年寄りまで、幅広い年齢層の聴衆のひとりとして。古いソウル・ミュージックや、ザ・クラッシュの曲がかかって、そんな気分を盛りあげる。後者はたしか「Armagideon Time」で「えっ? この曲?」と思った記憶があるのだが、実は本編自体が、なんとも「アルマゲドン」的な...。
もともと、リード・シンガーたるシェーンがポーグスを脱退してしまった原因のひとつも、酒やらタバコやらをやりまくる彼の不摂生ぶりにあったわけで、駅で転んで血だらけになってただの、いろんな噂を耳にしていた。だから、今の彼が普通ではないことも予想できたはずなのだが、まさか、あそこまで...。
要するに、倒れずに歌いつづけていること自体が奇跡...といった感じの、よろよろぶり。最初は唖然とするのみだったものの、ほかのメンバーたちの(アーティスト...芸人ならではの厳しさはもちろんキープしつつ)「こんな状態のシェーンをサポートして、できるかぎり最高のショウにしよう」という熱意もあいまって、ぼくがこれまで観てきたライヴでは経験したことのない、まったく新しい種類のスリルを感じさせてくれた。
ちなみに自分は90年代なかば、北ロンドンのアイリッシュ・パブで、ポーグス脱退後のシェーンにインタヴューしたことがある。ぼくはそのころ(実は)数年間禁煙していた。そして、ひとりタクシーに乗りやってきたシェーンは、(当時でさえ)かなり足下がおぼつかない感じだった。ビールを飲みつつ盛りあがったあと、彼は自分のふところに手をつっこみつつ、「お、おめえも、やるか?」。キターッ! と思ったら、健康的...普通にタバコだった(笑)。当然いただくでしょう。それから忙しさが半端なくなったという偶然も手伝って、ぼくはそこから20年以上ずっとチェーン・スモーカー。そんな経緯もあって、ステージ上の2014年の彼の姿も、決してひとごとには思えなかった...。数年後の自分? みたいな...。
ぼくのまわりの年配客の反応も、おそらくみなそれぞれの感慨を抱きつつ、総じて冷たくはなかった。少なくとも「くたばれ! がっかりだ! ひっこめ!」という叫びは聞こえてこなかった。若者たちは戸惑いながらも「なにこれ? ネタ? ジジイ...がんばれよ(笑)、おい!」って感じだった。
いったい何なんだ?
いや、これも2014年のロックのひとつなんだろう。だけど、盛りあがるってのとも、心があたたかくなるってのとも違う。自分自身の気持ちも含み、ひたすら不可解...。そう、まるでデヴィッド・リンチの作品(を観ている、のではなく)そのまっただなかに放りこまれてしまったようだった。
それまでいくつかのライヴをおこなってきたシェーンありのポーグスが、フジロックのあと、しばらくはそれをおこわないという情報は事前に得ていたが、そりゃそうだろう。こんなことつづけてたら、死人が出ちゃう...ぜ...。
雨に濡れたままシャトル・バスで越後湯沢まで戻り、すでに眠りかけてた編集部近藤くんにあいさつだけして、ありがたくも天然温泉につかりつつ、その複雑な思いがどうしても消えなかった。今も残っている。