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 前作から2年ぶりの新作。1年のオフを経てじっくりと制作されたという本作は、どこかひんやりとしているけれども、これまでの作品にはなかったような 「温かみ」のような耳触りがある。一聴すると地味に感じるかもしれないが、繰り返し聴いていく内にその「慈悲の念」にも似たアレクシスのソウルフルな 「歌」が心をじんわりと暖めてくれるのがわかる。そもそもの出発地点はデリック・メイのクラシック「Strings Of Life」だという話だけれど、2008年末にコラボレーションをしたロバート・ワイアットの影響もここにはあるのかもしれない(実際、カンタベリー・ シーンとも関わりのある元クワイエット・サン~ディス・ヒートのドラマー、チャールズ・ヘイワードが数曲で参加)し、また、よくミュージシャンが「このアルバムは前作からの反動だ」と語ることが多いように、例えば「Ready For The Floor」のPVでアレクシスが演じた「バットマン」のジョーカーみたいな道化役(いわゆる「今のダンス・シーン」の先導役?)という自らが置かれた立場に対する反動という面もあったのかもしれない。そういう点ではいかにもイギリスのバンドらしいヒネクレ方だなぁと思うのだけど、しかし、本編(日本盤は ボートラ2曲収録)の最終曲「Take It In」で展開される、内省的なつぶやきからサビへと至る瞬間に一気に視界が開けていくような感覚にはきっと誰もが心を揺さぶられるはずだ。ひどく率直に捩じれながらも、それ故に人間臭くて感動的な作品だと思う。

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米ヴァージニア在住の40代中盤のシンガー・ソングラーターのニュー・アルバム。日本でも"ハンドメイド・ポップ職人の好盤"として話題になった前作『For Those Who Like To Pop』以来10年ぶりのアルバムだが、音楽性はそのままで、ブライアン・ウィルソンやポール・マッカートニー、バート・バカラックといったポップ・マエストロの影響を自身の感性で発酵・熟成させた、まさに良質ポップ見本市のような作品になっている。捨て曲なく、どの曲もいいメロディ。基本的に一人でピアノの弾き語りで、そこに気心の知れたメンバーがサポートしてレコーディングされたのだろう。転調は多いが、凝ったアレンジは少なく、シンプルな編成で演奏されている。その音の隙間に漂う、ほのぼのとした空気が心地よく、何度リプレイしても飽きない。休日の午後に聴くのが最適といえる。ソフトなヴォーカル、産みの苦しみを感じさせないメロディアスな作風はなんとなく、ポール・マッカートニーのデモ・テープのような感じでも聴ける。もっと早く聴いていたら、2009年のベスト・アルバムの1枚になっていたな。
(竹部吉晃)

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 ミニマル・ミュージックの美しさ。ダブステップの暗闇からの誘い。そしてエレクトロニカの繊細さ。フォー・テットの新作は、僕らの生活にそっとロマンスを足してくれる。素晴らしいサウンドトラックである。

 フォー・テットこと、キエラン・ヘブデンのキャリアは、ポスト・ロック・バンドであるフリッジのメンバーとして始まる。その後、彼はフォー・テットと名乗り、99年に『ダイアローグ』というアルバムからソロ・プロジェクトをスタート。これまでに6枚のアルバムをリリースし、そのキャリアを通して彼は、フォークトロニカを代表する音楽家として認知されることが多い。

 これまでの作品に触れてきたファンは、今作についてもフォークトロニカが美しく鳴らされることを期待するかもしれない。しかし、このアルバムが再生されると、スピーカーからは4つ打ちのキックが鳴り始める。それを意外に思う、またがっかりしてしまうファンもいるかもしれない。ただ、音楽にちょっと身を任せてみればすぐにわかる。こんなに美しい音楽が他にあるだろうか。

 今作を細かく分析すれば、冒頭で挙げたような、様々な音楽の影をこの作品から受け取ることができる。キエランがいかに様々な音楽を聴き、そこから影響を 受けていることがわかるだろう。これまでの作品を通して鳴らされてきた彼らしさ、そこにダブステップのような新たな風が吹き込んでいる。

 しかし、このアルバムを一度通して聴けばわかるように、ここで鳴る音楽は、その音の一つ一つが本当に美しい。そしてロマンスに溢れている。こんな美しく素晴らしい音楽の前では、誰もが立ち止まり身を委ねてしまうだろう。